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名古屋高等裁判所 昭和48年(ネ)202号 判決

控訴人

三木浦漁業協同組合

右代表者

大門道則

右訴訟代理人

山田正武

被控訴人

三鬼孝

右訴訟代理人

野島達雄

外二名

主文

原判決を次のとおり変更する。

控訴人は、被控訴人に対し、一九七万九、四五〇円およびこれに対する昭和四五年七月三〇日から支払いずみまで年六分の割合による金員を支払え。

被控訴人のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じてこれを二〇分し、その一を被控訴人の、その余を控訴人の各負担とする。

事実《省略》

理由

一被控訴人と控訴人との間で被控訴人主張のように助惣鱈の売買契約を締結し、被控訴人が売主としてこれを履行したところ、その一部につき保管を委託されたこと、ならびに右売買契約が被控訴人の詐欺に基づくものであるとして、これを取り消す旨の控訴人の主張事実に関する当裁判所の認定判断は、次のとおり補足訂正するほか、原判決理由説示(原判決九枚目表三行目から同一一枚目裏初行まで)と同じであるから、ここに右記載を引用する。

1、2〈省略〉

二控訴人は、控訴人が被控訴人に対し、本件売買代金債務を負担するにいたつたとしても、昭和四三年四月一五日、右債務につき訴外大門国市と被控訴人との間で、債務者の交替による更改契約を結んだので、右売買代金債務は消滅した旨主張するのに対し、被控訴人はこれを争い、仮に、同日成立した合意が更改契約に当るとしても、同年一〇月二三日、右更改契約をさらに合意解除したので、控訴人の本件売買代金債務は旧に復した旨主張する。そこで、以下右各主張について判断する。

1  〈証拠〉を総合すると、次の事実を認めることができる。

(一)  控訴人が被控訴人に対し本件助惣鱈の発注をした後、はまちの飼料に適するいわし等が大量に入荷したため、はまち養殖業者が手間のかかる助惣鱈を使用しなくなつたので、控訴人は、はまちの飼料として仕入れた本件助惣鱈を売りさばくことができないでいた。

(二)  昭和四三年一月下旬ころ、右の事情を知つた控訴組合の組合長大門国市は、常務理事川口清水に対し、本件助惣鱈の処分につき被控訴人と折衝するよう命じた。そこで、右川口は、同年二月六日、被控訴人と交渉し、本件助惣鱈の引き取り方を要請したが拒絶され 結局控訴組合において売却処分することとし、被控訴人はこれに協力する旨約したにすぎなかつた。控訴人はその後買手を見付けて処分すべく奔走したがなかなか見付からなかつた。

(三)  そうしているうちに、はまち(稚魚)の飼料の仕入時期が差し迫り、これを冷蔵庫に貯蔵する必要があつたため、控訴組合では本件助惣鱈を冷蔵庫から搬出せざるを得なくなつた。そこで、昭和四三年四月一一日、当時の組合長大門国市は、被控訴人を組合事務所に呼び寄せ、他の役員とともに本件助惣鱈の売買経過とその処分について事情を聴取したが結論を得られないまま話合いは物別れに終つた。次いで、同月一五日、組合長大門国市は、参事上岡太郎を立会させて、再び被控訴人と話合いをした。その結果、右両者間で、「(1)大門国市は個人の立場で被控訴人に対し二六万円を支払う。(2)被控訴人は控訴人の冷蔵庫に保管中の本件助惣鱈を同年四月末日まで搬出したうえ 他に保管中の助惣鱈と合せて売却処分し、その売得金を取得する。(3)控訴人は被控訴人から年間一、〇〇〇トン以上はまちの飼料を購入し、被控訴人はその売上利益で本件助惣鱈の取引により被つた損害を補填する。」旨の合意が成立した。控訴組合はこれを直ちに同日開催の役員会に諮つたところ、一部の役員から異論が出たため総代会の承認を求めることとなり、同月二四日開催された総代会においてこれが付議承認された。

(四)  被控訴人は、右合意に従い同月二六日から同月二八日にかけて本件助惣鱈を搬出処分し(この点当事者間に争いがない。)、大門国市も被控訴人に支払うべき二六万円のうち二二万六、六四〇円を控訴組合に預け入れたので、控訴人は右金員を仮受金として会計処理した。

(五)  ところが、控訴人は、大門国市から預つた右金員を被控訴人に支払わず、はまちの飼料の取引についても急場のつなぎ分として少量仕入れたのみで、昭和四三年五月以降は全く仕入れず、被控訴人との取引を中止してしまつた。そこで、被控訴人は、昭和四三年一〇月二三日、控訴人に対し、同年四月一五日に成立せしめた右合意を解除する旨の意思表示をなし、控訴人および大門国市はこれを承諾した。

以上認定した事実に反する〈証拠〉は、前記挙示の各証拠に照らしにわかに措信することができず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

2  以上認定した事実によれば、控訴人が被控訴人に対し負担していた本件売買代金債務等につき、昭和四三年四月一五日、控訴人、大門国市および被控訴人の三者間で、右債務を消滅させるとともに、新たに被控訴人に対し、大門国市は二六万円の支払義務を、控訴人は年間一、〇〇〇トン以上はまちの飼料を購入すべき義務をそれぞれ負担する旨の更改契約を成立せしめたものと認められるところ、更改契約は、旧債務を消滅させる一方、新債務を成立させることによりその効果は完結するので、当事者の一方が新債務を履行しないときは、そのことを理由に更改契約を解除することができるか否かは問題がないわけではない。しかしながら、本件の場合、被控訴人が大門国市および控訴人の債務不履行を理由に一旦成立した更改契約を解除する旨の意思表示をしたものであるけれども、同人らにおいてこれを承諾したものであつて、その実質は合意解除であるから、このような場合には更改契約の解除を認め、一旦消滅した旧債務は復活するものと解するを相当とする。したがつて、本件売買契約から生じた控訴人の被控訴人に対する旧債務はすべて復活したので、控訴人はこれを支払うべき義務があるといわなければならない。

三そこで、進んで控訴人の支払うべき金額について検討する。

1  被控訴人が控訴人に引渡した助惣鱈は57.23トンであり、その単価が一キロ当り三一円であることはすでに認定したとおりであるので、その売買代金は一七七万四、一三〇円となる。

2  〈証拠〉によると、被控訴人は、控訴人の依頼に基づき一旦控訴人に引渡した本件助惣鱈のうち25.99トンを浜口漁業株式会社へ運搬して保管を委託し、その保管料として三七万〇、六〇〇円、運賃として二万二、一八〇円を立替払いしたこと、被控訴人は昭和四三年四月一五日の合意に基づき、本件助惣鱈のうち54.92トンを控訴人から引き取り、これを大平産業株式会社へ一キロ当り七円で売却し、その売得金三八万四、四四〇円を取得したこと、そのため諸経費として合計一九万六、九八〇円の支出を余儀なくされたことが認められる。なお、甲第九号証の三の保管数量および売上数量に関する記載部分は、いずれも誤記であること明白であるから、右記載が右認定の妨げとはならない。

3  以上認定したとおり、被控訴人は控訴人に対し、本件売買代金等合計二三六万三、八九〇円の請求権を有するところ、被控訴人は控訴人から引き取つた助惣鱈を売却処分してその代金三八万四、四四〇円を取得した後、更改契約を解除したので、右解除に基づく現状回復として右金員を控訴人に返還すべき義務が生じたが、これを本訴において右請求権と対当額で相殺する旨主張するので、結局、控訴人に対し一九七万九、四五〇円の支払いを求め得るにすぎない。

四控訴人は本件売買代金の一部を弁済した旨主張するが、本件全証拠によるもこれを認めることができないので、右主張は採用の限りでない。

五以上の次第で、控訴人は被控訴人に対し、一九七万九、四五〇円およびこれに対する本訴状送達の翌日であること記録上明らかな昭和四五年七月三〇日から支払いずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金を支払う義務があるので、被控訴人の本訴請求は右の限度で正当であるからこれを認容し、その余は失当として棄却を免れない。よつて、右と異なる原判決を主文掲記のとおり変更することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、九二条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(三和田大士 鹿山春男 新田誠志)

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